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深掘りレポート · 豊洲ベイサイドクロス

豊洲ベイサイドクロスとは何か──駅直結の複合開発が描いた『湾岸新都心』の全体像 (第1回)

2020年開業の駅直結複合開発。オフィス・商業・ホテルで構成される延床約29万㎡の大型プロジェクト。・豊洲市場・とと一体化した回遊動線を形成し、湾岸エリアの新たな中核に。・一方で竣工直後のコロナ禍など、評価には時間を要する側面も残る。

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はじめに:なぜ今『豊洲ベイサイドクロス』を読み解くのか

と東京メトロ有楽町線が交差する豊洲駅の目の前に、ひときわ存在感のある 2 棟のタワーが建っている。2020 年 7 月にグランドオープンした『豊洲ベイサイドクロス』だ。事業主体は三井不動産。延床面積は約 29 万㎡と、都心部の大規模再開発と比較しても遜色のないスケールである。

本連載では、この豊洲ベイサイドクロスを 5 つの角度(全体像 / 交通 / 相場 / リスク / 過去事例)から掘り下げていく。初回となる本記事のテーマは『全体像』。プロジェクトそのものの設計思想と、湾岸エリアにおける位置付けを整理することから始めたい。

住まい選びや資産形成を考える読者にとって、再開発プロジェクトは『街の価値がこれからどう動くか』を読むうえでの最大の手がかりになる。豊洲ベイサイドクロスは、すでに『計画』ではなく『稼働中(operational)』のフェーズに入っているため、実績ベースで評価できるのが強みだ。

プロジェクトの骨格:何が、どこに、どれだけ建ったのか

豊洲ベイサイドクロスは、豊洲駅直結という立地を最大限に活かした複合開発である。三井不動産の発表資料によれば、主要構成は以下のとおりだ。

  • タワー A:オフィス主体の超高層棟。2020 年 2 月に竣工。
  • タワー B:『三井ガーデンホテル豊洲ベイサイドクロス』を含む棟。
  • 低層部:商業施設・レストラン・交流空間。

延床面積は約 29 万㎡。これは、東京ミッドタウン日比谷(約 19 万㎡)を上回り、のフラッグシップビルに匹敵する規模感である。豊洲駅の至近距離にこれだけのフロアが一気に供給されたインパクトは、決して小さくない。

注目すべきは、単体の巨大ビルを建てたのではなく、『駅 〜 豊洲ベイサイドクロス 〜 ららぽーと 〜 豊洲市場』という線状の人の流れを意識した配置になっている点だ。駅を出てすぐオフィスワーカーが吸い込まれる動線、休日には商業・観光客が湾岸沿いへ流れる動線が、ひとつの街区で両立するように設計されている。

『駅直結オフィス + ホテル + 商業』という組み合わせの意味

豊洲ベイサイドクロスの特徴は、住宅を含まない『非居住系複合開発』であることだ。タワーマンションが林立するエリアにおいて、あえて『働く・泊まる・買う』機能を集中投下した点は、街全体の機能バランスを取るうえで重要な意味を持つと考えられる。

はもともと 2000 年代以降、湾岸タワーマンション供給の象徴的エリアとして成長してきた。一方で、『住む場所』としての機能が先行し、『働く場所』『訪れる場所』としての厚みはまだ発展途上だったと見る向きもある。そこに、駅直結のオフィスタワーと宿泊拠点が加わったことで、平日日中と夜間、さらに休日という時間帯ごとの街の顔が増えた。

とくにオフィスワーカーの流入は、ランチ需要・アフター 5 需要・法人宿泊需要を連鎖的に生む。商業施設『と』との回遊性が高いことは、ベイサイドクロス単体の集客力を補完する形で機能しているだろう。逆に言えば、ベイサイドクロスは『単体完結型』ではなく、既存のの資産(市場・商業・住宅・公園・水辺)を束ねるハブとして機能するよう設計されていると整理できる。

2020 年開業というタイミングをどう評価するか

正直に書いておきたい論点がある。豊洲ベイサイドクロスのグランドオープンは 2020 年 7 月 29 日。言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響がで最も色濃かった時期のひとつだ。

オフィス需要・ホテル需要・商業施設の集客、いずれの面でも、通常の開業よりはるかに厳しい環境でスタートせざるを得なかったと考えられる。この点を無視して『大成功した再開発』と評価するのは誠実ではない。

一方で、2023 年以降はオフィス回帰の流れやインバウンド回復が進んでおり、エリアのホテル稼働率や商業施設の来場者数も回復傾向にあるとみられる。現時点(2024 年以降)でベイサイドクロスを評価する際には、『コロナ禍というハンデを抱えてスタートした施設が、立地の強さでどこまで巻き返したか』という視点で見ると、よりフェアな読み取りができるはずだ。

なお、具体的なオフィス稼働率・ホテル ADR・商業売上などの個別数値は、本記事執筆時点で公表情報が限定的だ。次回以降の『相場』編では、周辺の賃料水準や中古マンション価格の推移と合わせて、間接的にエリア全体の熱量を測っていきたい。

湾岸再開発の系譜のなかでの位置付け

ベイサイドクロスを湾岸再開発史のなかに置いてみると、その役割がより見えやすくなる。

  • 2000 年代:と(2006 年開業)、タワーマンション群。『住 + 商』が先行。
  • 2010 年代:市場移転(2018 年)。築地からの機能移転により『食・観光』機能が加わる。
  • 2020 年代前半:豊洲ベイサイドクロス開業。『業務 + 宿泊』機能の集中投下。

この流れを俯瞰すると、は約 20 年をかけて『住・商・食・業・泊』を段階的に積み上げてきた街だとわかる。ベイサイドクロスは、最後のピースとして『業務・宿泊』を埋めた存在だと位置付けられる。

他エリアと比較すると、・・のような『ビジネス街の延長としての湾岸』とは異なり、は『住宅地の延長として業務機能を足した湾岸』という珍しい成り立ちになっている。これは共働き世帯にとっては『職住近接』が成立しやすいことを意味し、堅実系投資家にとっては『単一用途に依存しない多面的な需要基盤』を持つエリアと解釈できる可能性がある。ただし、これはあくまで構造的な示唆であり、個別物件の投資判断を保証するものではない点は強調しておきたい。

読者タイプ別:全体像からまず押さえておきたい論点

最後に、本記事の読者に想定している 3 つのタイプ別に、『全体像フェーズ』で把握しておくべきポイントを整理する。

共働き世帯にとって
通勤動線のなかに大規模オフィスが加わったことで、パートナーの職場が豊洲圏になる可能性、子育て期に職住近接を選べる可能性が広がったと言える。反面、エリアの物件価格はすでに高値圏にあり、『再開発効果を先取りした価格』である点は認識しておくべきだろう。

堅実系投資家にとって
ベイサイドクロスは『住宅を含まない』ため、直接の投資対象にはならない。しかし、オフィス・ホテル機能の追加は周辺賃貸需要や中古マンション流動性に影響を及ぼしうる。エリアのファンダメンタルズを底上げする『外部要因』として観察する価値がある。

地元住民にとって
日常の買い物動線・駅利用動線が変化した実感を持っている方も多いだろう。平日の人流増加は商業の選択肢を増やす一方で、朝夕のホーム混雑など交通面の負担も無視できない。この点は次回『交通』編で詳しく扱う。

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本記事では、豊洲ベイサイドクロスを『湾岸の最後のピース』として俯瞰した。次回は、豊洲駅・ゆりかもめ・BRT・バス網といった 交通インフラの視点 から、このエリアの実力と限界を掘り下げていきたい。